最終契約書の記載内容・留意点を解説(後編)
前編では最終契約書の目的および一般的な記載内容について解説しました。後編では、売り手・買い手それぞれの目線からの留意点について解説していきます。前編を読まれていない場合は先に前編から読んでいただくことを推奨します。
前編はこちら
留意すべきポイント(売り手)
最終契約書には、一般的に譲受側のリスクを軽減することを目的とした内容が多く含まれます。そのため、売り手としては、過剰な責任を負わないという観点から契約書の内容を確認する必要があります。また、競業避止義務に関するトラブルを防ぐという観点も大切です。それらを踏まえて、売り手にとって特に重要なチェックポイントについて解説します。
1.表明保証は遵守できるか
表明保証を遵守できなかった場合には、損害賠償責任を問われるリスクがあるので、表明保証の内容を遵守できるのかという点については留意する必要があります。
表明保証には、売り手が把握しきれていない内容が含まれている場合も多く、その場合は売り手が過剰な責任を負うことになります。そのため、必要に応じて「知る限り」という文言を入れることがです一般的です。特に、簿外債務等の潜在債務の不存在や重大な悪影響を及ぼす可能性のある事象の不存在等の広義な解釈が可能な条項については、「知る限り」という文言を入れて、知らなかった事実については免責されるようにすることが考えられます。
なお、「知る限り」と似た文言で「知り得る限り」という表現がありますが、「知り得る限り」とすると、当該事実について合理的に調査すれば知ることができた場合は免責されないという意味になり、大きな違いがあるので注意が必要です。
2.クロージング前後の誓約事項は遵守できるか
クロージング前後の誓約についても表明保証と同様に遵守できなかった場合には、損害賠償責任が問われるリスクがあるため、確実に遵守できる内容となっているか留意する必要があります。例えば、買い手が売り手に対して、重要な役職に就いている従業員がM&A後も会社に留まるように要求することを求めてくる場合もありますが、強制することはできないため、このような規定が含まれている場合は、「最大限努力すること」という文言を追加し、努力を怠った場合のみ責任を負うようにするのが一般的です。
3.競業避止義務は遵守できるか
競業避止義務も損害賠償請求の対象となるため留意すべき点があります。売り手の経営者がM&A後に完全に引退する場合を除いて、M&A時点で意思がなかったとしても、将来的に同じ業種で仕事をする可能性があるかと思います。そのため、競業避止義務については、将来の可能性を考慮しつつ、競業避止義務の範囲・期間・地域を限定するように買い手と交渉しなければならない点に注意する必要があります。
留意すべきポイント(買い手)
買い手における最終契約書の最も重要なポイントは、デューデリジェンスで発覚しなかった問題点がM&A成立後に発覚した場合に、損害賠償請求等により不当な不利益を被るリスクを軽減することにあります。また、M&A成立後に企業価値を毀損しないようにするというポイントも重要です。それらを踏まえて、買い手にとって特に重要なポイントについて解説します。
1.表明保証の内容は十分であるか
前編で解説した通り、最終契約書にはデューデリジェンスを補完する役割があります。その役割を十分に果たすために、表明保証に必要十分な内容を明確に規定することが重要になります。M&A成立後に問題点が顕在化する可能性もあるため、「重大な悪影響を及ぼす可能性のある事象の不存在」等の予見できない事象に対応できる規定を含めることが一般的です。
2.損害賠償額および期間は十分であるか
デューデリジェンスを補完する役割を果たすために、損害賠償額および期間に関する規定も重要です。買い手が表明保証や競業避止義務等の違反をした場合、違反の事実と損害額の立証責任は買い手にありますが、損害額を算定することは非常に困難であるため、事前に具体的な金額を規定して、契約書に明記することが望まれます。規定される金額は売り手との交渉によりますが、譲渡代金の10%~30%程度で設定されることが一般的です。契約書に具体的な金額を規定しておくことで、買い手の立証責任を軽減するだけではなく、損害賠償に該当する事象が発生した場合に、交渉を進めやすくなります。
また、補償請求権の行使可能期間にも留意する必要があります。競業避止義務の期間よりも補償請求権の行使可能期間が短いと競業避止義務の意味がありませんので、競業避止義務の期間と合わせるか、それ以上で設定する必要があります。
3.従業員の雇用維持は可能か
中小企業にとって、従業員は企業価値に直結するため、従業員の雇用維持は企業価値を毀損しないという意味で重要なポイントです。事業を円滑に継続するために必要な知識や経験を持つ人材を確保するために、誓約事項として重要な役職に就いている従業員がM&A後も会社に留まるように努力する義務を規定することを検討する必要があります。
また、クロージング後、一定期間は売り手に対して事業を円滑に遂行するための引き継ぎ業務に関する協力を要請する規定を設けることも考えられます。さらに、必要に応じて売り手の経営者とは別途、顧問契約を締結することも検討すべきです。
おわりに
後編では最終契約書の売り手・買い手それぞれの目線での留意点を解説しましたが、重要なポイントに絞って解説しているため、最終契約書の作成においては他にも留意すべき事項は多数あります。それらを網羅的にチェックするためには、弁護士等の専門家のサポートを受けることがベターと言えます。
弊社では、最終契約書の作成・交渉も含め、M&Aをトータルサポートする万全の体制が整っておりますので、是非お気軽にお問い合わせください。