M&Aのメリット・デメリットとM&Aに向けた事前準備を解説(買い手編)

M&Aの買い手のメリット・デメリットとは?

【メリット】

1既存事業の拡大、利益率の改善

M&Aでは、買収対象企業が保有する土地・設備などの目に見える資産はもちろん、「人材」「技術」「ノウハウ」「顧客関係」などの目に見えない資産(以下「無形資産」といいます。)も買収することになるため、これらの資産を活用して、既存事業の成長を一気に加速させることができます。
また、一般的にビジネス規模が拡大すると、「仕入コストの値下げ」「設備の効率性向上」「知名度やブランド力の向上」などが望めるため、利益率の改善にもつながります。

2.新規事業への参入、事業の多角化

売上を安定的に伸ばし続けるためには、既存事業の拡大に注力するのみならず、新たな収益源となる事業を見出すことも重要となってきます。
また、自社を取り巻く経営環境の変化に対応するため、リスクを分散するという目的でも事業の多角化は重要な経営戦略になります。
しかし、自社で一から新規事業を立ち上げ、収益を獲得できる事業とするまでには莫大なコストと時間を要します。M&Aにより既に設備や人材が揃った事業を買収できれば、圧倒的なスピードで事業の多角化を達成することができます。

【デメリット】

1経営統合の失敗

中小企業のM&Aにおいては、従業員の大量退職など人材流出による失敗ケースは少なくありません。特に企業規模が小さければ小さいほど、組織風土・文化が色濃く浸透している傾向が強く、異なる組織風土を持つ社員を融合していくことは、相当の労力と時間を要します。
中小企業では特定の社員に「ノウハウ」「技術」「顧客関係」が帰属していることが多いため、人材流出は買収対象企業の価値の毀損と同義になります。

2.想定していたシナジーが得られない

M&Aにおいては、両社の保有する資産を掛け合わせて生まれる効果、シナジーを買収対象会社の価値に織り込んで買収価格を決定しますが、いざM&Aを実行すると、「M&Aにより顧客離れが生じる」「業務統合コストが多額になる」「デューデリジェンスの不足により非現実的なシナジーを想定してしまっている」、など想定していたシナジーが得られない事態が発生します。

買い手の事前準備を解説

1.M&A戦略の立案こそが最も重要

M&Aは簡単にいうと会社・事業の売買です。何か商品を購入することを検討するときに、みなさまは何を考えますか? 例えば、予算・形・用途・スペックなどの条件を設定した上で、いくつもの候補から購入する商品を決定すると思います。M&Aも全く同様で判断基準を明確にした上で、買収企業を選定する必要があります。

これこそが、M&A戦略と呼ばれるものです。

さらに、M&Aはタイミングがとても重要になります。
M&Aには相手がいますが、その相手がいつでも誰とでも取引可能な状態にあるわけではありません。相手の状態は、常にケースバイケースで流動的であるため、案件が発生したら、素早く決断を行い、動き出す必要があります。判断基準が曖昧な状態で案件が発生した場合、素早い意思決定を行うことはできないため、タイミングを逃さないという意味でもM&A戦略は重要であるといえます。

では、具体的にM&A戦略を立案するためには何から始めれば良いのでしょうか。

それはズバリ、“己を知る”ことが第一歩になります。

すなわち、M&Aは目的ではなく、自社の成長戦略の一つの手段に過ぎないため、「自社は何を持っていて(強み)、何が不足しているのか(弱み)」を分析・検討する必要があります。
そして、成長戦略の中でM&Aにより「何を達成(目的)したいのか」を明確にしなければなりません。例えば、製品開発力に強みがあるものの、販売ルートが限定されているという企業の場合は、販売ルートを多数保有している会社を買収することにより既存事業の成長を加速させる、といったような成長戦略の中での目的を明確にします。
目的が明確になると、自ずと判断基準も限定されてくるため、M&A戦略の立案が可能となります。

中小企業にとって売り手に関する情報の主な情報源は、仲介会社からの紹介やマッチングサイトになると思いますが、条件面が明確化されていれば、資金面の支援と併せて金融機関にも相談しやすくなるため、情報源を増やすことも可能となります。

2.ロングリスト/ショートリストの作成

まずは、M&A戦略に合致する企業をできるだけ”幅広く”リストアップしましょう。買収候補企業をリストアップしたリストをロングリストといいます。
中小企業のM&Aの場合は、相手先にそもそもの売却意思がなければ、交渉をスタートすることができないため、そういった会社をリストアップすることは意味を為さないようにも思えますが、ロングリストを作成する中で判断基準となるM&A戦略をブラッシュアップすることが可能となるため、幅広くリストアップすることをおすすめします。
ただし、あくまでもM&A戦略に合致している企業のみをリストアップするようにしてください。単純に「利益が出ている」「売上が大きい」などの財務的情報が良いというだけで、リストアップするのはNGになります。
ある程度の件数のロングリストが完成したら、次に幅広くリストアップしたロングリストからより優先度の高い候補先を選定しましょう。選定したリストをショートリストといいます。
リソースが無限にあれば、ロングリストの候補先全てと交渉することも可能ですが、限られたリソースの中でM&Aの成功に導くためには、ショートリストの作成が重要になります。
具体的には、優先順位を決めるうえでは大きく3点を評価軸としましょう。
 ①M&A後のシナジー効果の程度
 ②財務健全性の程度
 ③実現可能性(相手に売却意思があるかどうか)

その他、M&Aは情報漏洩のリスクがあるため、自社がM&Aを検討していることを知られたくない企業はショートリストを作成するうえで除外する必要があります。特に同業者同士では、取引を制限される危険性もあるため慎重に検討すべきになります。

おわりに

M&Aは売り手企業ありきと勘違いしてしまい、「何か良い案件があったら紹介してほしい」と仲介会社や金融機関に丸投げしてしまう経営者が時々いますが、こういった丸投げのスタンスでは一向に良い案件は紹介されません。(正確には、案件を紹介されたとしても自社にとっての良し悪しを判断できずに、簡単な財務的情報だけを見て判断してしまい、一向に進まないケースが多いです。)

しっかりと判断基準となるM&A戦略を立案し、買収案件が発生した際には素早く意思決定を行える準備を整えておくことがM&Aを成功させる最も重要な準備になります。どれだけ、デューデリジェンスや契約交渉を高度なレベルで実施したとしても、そもそも買収対象がM&A戦略に合致していない場合は、想定していたシナジーが得られないなど、M&Aが失敗に終わる可能性が高くなります。

弊社は、M&A戦略の立案から実行までご支援しておりますので、是非お気軽にお問い合わせください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です